ドラクエ・SF好きの小説・ゲーム日記

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ショートショート 「歩く辞書」3

※前回の続きです
人々は自ら学ぶことをやめた。次々と自分の頭に思い浮かんですることを、実践することの方が有意義なのだ。そもそも、学ぶことなど何も無いのだ。全部頭の中に書いてある。彼らに、新しい事を生み出す力はほとんど無かった。彼らは、もはやただの歩く辞書であった。

「どうだ?」
青色の、二頭身の生物は、長い手足を揺らしながら、仲間にたづねた。
「ああ、実にうまくいっているよ。」
仲間は、望遠鏡のようなもので、地球を覗きながらそう答えた。
「そうか。奴らも、すっかり脳内の辞書に頼りっぱなしになったようだな。」
「ああ。完全に自分で考える能力をうしなったようだ。」
「では、いよいよ、辞書の中身を書き換えていくか。少しずつ、我々を超越的な、あがめ、従うべき神であるかのような価値観を植えつけていくんだ。」
「どれ、まずは、イエス・キリストを我々と同じ姿であるように書き換えてみるか・・・。」

地球では、少しずつ何かが変わっていった。何故か、過去の偉人達は皆、青色で、二頭身であった。また、風邪薬を飲んだ人達が、狂ったように青色の二頭身の生物をあがめはじめた。初めは、違和感を感じる人々も多少はいた。だが、誰も間違いを指摘できなかった。イエス・キリストや、仏陀や、アインシュタインなどの、どの姿を思い浮かべても、でてくるのは、青色の二頭身の生物なのだ。人々の記憶力は辞書に頼りっぱなしであったことですっかり失われてしまっていたため、それらの人物が先日まではどのような姿をしていたのか、思い出せなかった。風邪薬も同様で、元から、そのような副作用なあったかのように扱われはじめた。特に、害はないので、誰も問題視しなかった。時が経つにつれ、人々は青色の二頭身の生物を、何か特別で、尊敬し、従うべきものとして崇めはじめた。そして、いつか会える日を待ち望んでいた。

「では、そろそろ地球へと降りたつとしよう。」
青色の二頭身の生物はそうつぶやいた。
「ああ。今なら、皆、我々の奴隷のように働いてくれることだろう。」
仲間はそう言ってうなずいた。
「これで、ある程度知識のある、何十億もの奴隷を手に入れられるわけか。しかも、奴らの常識らいつでも書き換えられるから、反乱も起こされることも無い。」
「そうだな。さあ、行こうぜ。奴らも俺達と会うのを待ち望んでいる。早く行ってあげないとかわいそうだ。」