ドラクエ・SF好きの小説・ゲーム日記

ゲームの感想を書いたり小説を書いたりしています。

ショートショート 「歩く辞書」2

※前回の続きです。

次の日になっても、その出来事は大したニュースにはならなかった。円盤が現れた時間も短かったし、特に何もしていかなかったからだ。目撃証言や、映像も流出したが、バラエティー番組などで、多少取り上げられた程度だった。誰も、本当に宇宙人が現れたとは思っていなかった。

「よし、完成したぞ。」
男は叫んだ。ついに、宇宙人の置いていった作製方法通りの、発明品が出来たのだ。どうやら薬のようなものだ。どんな効果があるのだろうか?男は好奇心がしだいに膨れあがって不安を上回り、試しにそれを飲んでみた。すると、頭が急に活性化したようになった。長時間経っても特に気分が悪くなったりはしない。
「どうやら、害は無いようだな。」
男は、しばらく経つとそう言った。
「まだ、どんな効果があるがあるのかは分からないが、まあ日常生活を送るうちに、効果もはっきりしてくるだろう。」
効果はすぐにあらわれた。男が、机に座って、英語の論文を読もうとすると、驚くべきことが起こった。
(この単語の意味が分からないなぁ)
男がいつも通り、辞書を取り出して、意味を調べようとしたその時だった。急に、この時を待っていたかのように、頭の中で、その単語の意味が浮かびあがってきたのだ。その現象は、分からない単語が出てくる度に起こり、男はおかげでつっかえずにすらすらと読むことができた。
「これは、どういうことだ?僕は英語があまり得意ではないはずなんだが・・・」
その現象は他の様々な場面でも起こった。例えば、まだ世界中で作り出すことの出来ないでいた、細胞の作製方法や、料理のレシピ、地名、さらには経済や法律のことまで、あらゆるものが、思い出そうとすると、それが浮かびあがってくるのだ。
(分かってきたぞ・・・。つまりは、これは頭の中に数万冊の辞書をとりこむようなものだ。辞書で調べれば物事がわかるように、思い出そうとすれば物事が分かるのだ。)
男の研究は、その薬のおかげもあって、どんどん進んだ。未だ、解明されていなかった謎も、面白いように解けた。男はその薬を大量生産し、自分の発明品だと言って、高価で販売した。最初は誰もが、効用に疑心暗鬼であったが、男の異常な博識ぶりを見て、次第に買う人が、増えていった。やがて、薬は世界中に広がっていった。誰もが博識へとなっていった。
「我々が、今まで努力して、築いてきた知識は何だったんだ?」
「これから、どうやって生きていけばいいんだ。」
「だいたい、こんなものどうやって作ったんだ。」
と、世界中の学者達は憤り、また嘆いた。薬の中身を調べても、どうして、この成分でこんな効用が生まれるのか意味不明なのだ。学者の数は年々減っていった。学者がいなくとも、誰でも便利な発明をすることが出来た。いや、発明ではないかもしれない。頭の中で、次々と浮かんでくることを、そのまま作り出せばよいのだ。単なる生産である。だが、誰もが、今の急激な世界の発展が、自分達の力によるものだと信じていた。誰も、宇宙人のおかげだとは想いもしなかった。

※次回に続きます。