ショートショート 「歩く辞書」1
突然、空に巨大な円盤が現れた。それを見た一人の男が声をあげた。
「なんだ、あのでっかいのは?」
周りの人々も、その異様な存在に気が付いた。
「うわ、なんだあれ?」
「宇宙人じゃないか?」
「いや、作りものだろう。」
人々は、その異様な物体の正体を見破ろうと議論を始めた。それは、ゆっくりと地上へと近づいていき、やがて降り立った。人々は、中から何が出てくるのか、不安と期待の入り混じった目でそれを見つめた。
『やあ、地球の皆さん、こんにちは。』
突然、円盤から放送が流れた。
『私達は、違う星からやってきました。そのため、あなた方とは、あまりに違う姿をしており、私達の姿を見せると混乱になりかねない。よって、放送で話すことにしましょう。我々は、偉大な発明をしました。この発明は、きっとあなた方、皆のレベルを引き上げてくれることでしょう。私達は、あなた方の進歩を願って、この発明品を置いて行きます。』
人々は、正直訳が分からなかった。
「誰かのイタズラに違いない。」
「まず、姿を見せない、という時点で怪しい。」
「だいたい、偉大な発明をただで渡す奴などいるものか。」
「いや、親切な宇宙人なのかもしれん。」
ざわめく人々をよそに、その巨大な円盤は、ゆっくりとまた、地上から離れ、上がっていった。そして、ある程度の高さまで上、パッと消えてしまった。それを見た人々は目を丸くした。
「おいおい、消えちまったぞ。」
「本当に宇宙人なのかもしれない。」
「おい、待て、何かあるぞ。」
それは、小さい袋のようなものだった。中を見ると、細かい図がたくさん書きしるされていた。何かの作製方法のようだ。
「さっき言っていた発明とやらではないか?」
「いったいなんの作製方法なんだろう?」
人々がまたざわつきはじめていると、一人の男が声をあげた。
「それを僕に貸していただけませんか?私の研究所で、何の作製方法か、確かめてみたいのです。」
「あんたは、科学者か何かなのかね?」
「はい。先ほどの消える円盤といい、その発明も非常に興味深いものに違いない。どうせ、私以外の科学者に、それが宇宙人がおいていった物だと言っても信用しないでしょう。私が作ってみるのが一番だと思うんです。」
男がそういうと、次々と声があがった。
「別にいいんじゃないか?我々が持っていても仕方がないだろう。」
「そうだな、彼に渡すのが一番だな。」
人々の意見は一致し、その男にその小さい袋のようなものは渡された。人々は安心した。これで、得体のしれない物を処理することができた。人々は少し不思議な雰囲気を残しつつも、いつもの生活に戻っていった。
※次回に続きます